保存的装具療法とは? Conservative Treatment

このたび当社において東邦大佐倉病院整形外科教授 古府照男先生監修のもと
アキレス腱断裂に対する短下肢装具を開発いたしましたのでご案内いたします。

尚 採寸される部位に関しましては古府先生の文献に記載されております図4をご参照ください。

アキレス腱皮下断裂に対する保存的装具療法

  • Conservative Treatment Using functional brace of Achilles tendon rupture
  • 古府照男 Teruo Furufu,芦沢修一 Syuuichi Asizawa

Key words:

  • Achilles tendon rupture:アキレス腱断裂
  • Conservative treatment:保存的療法
  • Functional brace:機能的装具
  • Early mobilization:早期可動化
  • 所属:東邦大佐倉病院整形,教授,助手
  • 所属:Dept. of Orthop. Surg., Sakura Hosp.,Toho Univ.

はじめに Introduction

アキレス腱皮下断裂に対する治療方法は未だ統一見解ができていないのが現状である。最近の報告では手術療法に早期運動療法を併用する方法が推奨されているが,保存的装具療法の普及により治療成績では手術療法と保存療法の両群間に有意差はないとされている。われわれは20年に亘ってアキレス腱皮下断裂新鮮例の全例に保存的装具療法として自家考案の足関節背屈制限短下肢装具(以下SLB)を用いて早期運動療法を行ってきた(詳細は日整会誌76:311-320,2001を参照)。最近ではより利便性の高いSLBとして足関節部にダイヤルロックを用いて,個々の症例の改善状況に合わせた角度調整が可能な装具療法を行ったので,その実際について述べる。

症例

症例は265例で,男女差はなく,平均年齢は40.9歳であった。受傷原因は207例82%がスポーツ活動中の受傷であった。アキレス腱の断裂部位は踵骨付着部より平均4.5±1.5cmで,その陥凹の幅は平均2.1±0.9cmであった。断裂部位の左右差はなく,242例の肥満指数(BMI値)も23.3±3.0と正常範囲であった。経時的に撮影したcomputed radiogram(以下CR)を用いて断裂腱の修復過程の検討を行った。

治療方法

治療方法は受診時に自然下垂位で断裂部を確認し,足関節の底屈により陥凹の消失をみて,その肢位で装具の型どりを行い,短期間の膝下ギプス固定とする。今回の装具は下腿前面と足背部に分けて作成した(図1)。下腿は3mmの軟性ポリプロピレン樹脂で支持性を確保し,1mm硬性ポリプロピレン樹脂で下腿のサイズ調整用として数本のビスで固定し,二重構造とした。足背には3mmの軟性ポリプロピレン樹脂を用い,下腿部分との連結にはダイアルロックを用いた足継ぎ手付きとして4本のスクリューで固定した。ダイアルロックの一目盛りは約7゜となっている。皮膚に接する腹側面には刺激を避けるために全体を4mmピーライトで裏打ちとした(図2)。装着方法は従来のマジックベルト及びゴム帯を用い,歩行用パットを足底装具として併用した(図3)。この改良型SLBは図4の如くの計測を行えば,予め作成されたSLBとして使用が可能となり,装具作成の困難な先生方にも対応(IT治療)が可能となった。

装具装用時の治療経過

可能な限り早期(3〜4日,最近では数サイズの準備も可能となる)に装具を装用させ,ベルトの占めすぎに注意を払い,直ちに装具装着での底屈自動運動を開始させる。歩行時には楔状パッドを靴内に設置した。1週後に受診させ局所所見と共に,ベルトの占めすぎによる軟部組織の異常所見などに注意し,装着状況を観察する。

Thompson testはアキレス腱断裂の診断に用いられるが,この検査は患者を腹臥位として,膝関節を90゜屈曲させ,腓腹筋部を術者の手でつまむと,足関節の可動性が確認されるが,アキレス腱断裂の場合にはこの動きが診られない,この現象をThompson test陽性とする。Thompson testの陰性化はすでに1週目で認められる症例も少なくなく,受傷後平均2.7週で全例に認められた。断裂腱背側部の陥凹の消失は平均3.0週で確認され,この時点で装具を一時除去して無理のない程度での背屈自動運動を開始した。

装具に慣れた3週頃には転倒などの再受傷に対する注意を促す。
その後は局所所見での断裂部の緊張度を診て,CRから断裂腱の縮小率(背屈位での腱前後径の縮む程度)を計測して異常な最小化のないことを確認して角度調整(平均6.5週)をを行い,楔状パッドを1枚除去する。この時点で装具は夜間除去とする。縮小率は1週から10週までの平均値は90.8±7.8%,健側値は88.6±5.7%であり,この値を参考に約10%の縮小に止まることを確認する。機能撮影CR所見で収縮性が正常範囲となると,MR所見を参考に平均9.5週で装具を除去した。スポーツ活動復帰は平均6.0±3.9ヵ月であった。

代表例の供覧

症例57歳,男性。受傷後3週でMRでの低信号領域での連続性が認められ,CRでの機能撮影が良好であったため,底屈制限角度を1目盛り減少した(図5)。受傷後6週で再度底屈角度が減少でき,早期から良好な可動域の改善が行え,9週で装具除去が可能となった(図6)。受傷後4ヵ月のMRでは,前後径実測値16mmとなり全域において低信号を呈し,CRでの肥厚率,機能撮影所見も良好であり,剣道を再開した(図7)。

治療成績

調査時に愁訴はなく,早期のADL改善,早期のスポーツ復帰が可能で,精神的ストレスもなく,満足度は高い者であり,殊に受傷後5年以上経過例では軽度の肥厚を残すのみであった。その後のアンケート調査においても満足度は高く,ほぼ受傷前の運動能力まで改善されていた。手術合併症の発生はなく,再断裂が2例,過伸張が2例で合併症は計4例1.6%にとどまった。これまでに様々な靴型装具が用いられてきたが,生活習慣の違いで家庭内で靴を履かない日本人の場合は我々の装具は利便性の高いものと考えられた。

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